海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「マンハンター」ジョー・ゴアズ

舞台はサンフランシスコ。或るアパートの一室で、たった今素手で殺した南米人の死体を見つめる大柄な男。傍には17万5千ドルとヘロイン1キロ。それを無造作にアタッシュケースへ詰め込む。男の名はドッカー。買い手側の代行者だった。間もなくして麻薬の鑑定人が現場を訪れた。待ち伏せて、一撃で昏倒させる。ドッカーはケースを手に取り、逃走した。この男を差し向けたのは、或る実業家の依頼を受けた私立探偵のニール・ファーゴー。二人はベトナム還りの戦友だった。ドッカーの裏切りを知ったファーゴーは、売り手である闇組織の親玉ハリスに事の次第を告げる。当然、ハリスは探偵とドッカーの共謀を疑った。窮地に立たされたファーゴーは、元軍人の足取りを追うが、ドッカーは追っ手を逆に挑発する不可解な行動を取り始めていた。

ダシール・ハメットの衣鉢を継ぐゴアズ1974年発表作。原題は「インターフェイス」(境界面/接点)。このタイトルの深い意味合いは、衝撃的な結末で知ることとなる。犯罪小説として完成度が高く、終始ハイテンションで展開し、非情で硬質な世界を構築している。プロットは綿密に練られており、技巧も鋭い。
物語の主軸となるのは、利権を狙う犯罪組織に利用された果てに麻薬で破滅する薄倖な女の悲劇であり、徐々にカタチを成していくのは、その復讐に身を挺する男の冷たい怒りである。終局へと流れるほどに滲み出る渇いた感傷。卑しい悪を粉砕するために、より熾烈な暴力の罠を仕掛ける男の姿が鮮烈だ。
特筆すべきは、客観描写を徹底的に貫き、ハメットが「マルタの鷹」(1930)で用いたクールな文体に、さらに磨きを掛けていることだ。主人公を含めて登場人物の内面描写は一切無い。しかも、幕切れで明らかとなる真相が、このスタイルだからこその効果を上げている。スタイリッシュなハードボイルドの真髄。その究極は、ポール・ケイン「裏切りの街」(1933)なのだが、ゴアズが先達の作家を深く尊敬且つ探究し、現代に甦らせていることが分かる。
本作はクライムノベルの雄スターク/パーカーに捧げられているが、これはゴアズの自信の表出でもあるのだろう。

評価 ★★★★