海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「リラ作戦の夜」マーヴィン・H・アルバート

1983年発表作。第二次大戦中のフランス南部にある港町ツーロンを舞台とした戦争冒険小説で、史実と虚構を巧みに織り交ぜている。

1942年秋。ドイツに敗北後、実質は傀儡に等しいヴィシー政権下のフランス。休戦協定によって小康状態にはあったが、所詮はまやかしの平穏に過ぎなかった。ソ連北アフリカで苦戦を強いられていたドイツ軍は、戦況を覆す反撃を画策。だが、アフリカ戦線での逆攻勢を仕掛けるためには、ツーロン碇泊中のフランス軍艦隊を奪うことが必須となった。一方、連合国司令部は、極秘裏に南部侵攻を謀るナチスの動きを察知、工作員潜入に着手する。課せられた使命とは、艦隊司令部と接触後、速やかに出港を促すか、もしくは自沈遂行を説得し果たすこと。ドイツの顔色を窺う仏政府は頼りにならず、しかも限られた時間の中で極秘裏の任務遂行が求められた。選ばれたのは、英国特殊作戦執行部の精鋭ジョナス・ロイター。地の利を得てはいたが、当然のこと未知の試練を乗り越える必要があった。

物語は、独仏水面下の攻防を絡めつつ、現地レジスタンスの協力を得て工作活動に邁進するロイターを追っていく。プロットは手堅いが、主人公を含めて登場人物に抜きん出た魅力が感じられない点は残念。あまり取り上げられることのない歴史的事実を題材とした着眼点と構想力は光る。

評価 ★★★

 

リラ作戦の夜 (ハヤカワ文庫NV)

リラ作戦の夜 (ハヤカワ文庫NV)