1984年発表、クライヴ・バーカーらと並びホラー新世代を代表する作家として評価を得ていたバンクスのデビュー作。本の表紙に「結末を誰にも話さないように」とわざわざ刷り込み、粗筋紹介などでも際物的な先入観を植え付けるのだが、確かに特異な顛末は辿るものの、終幕における衝撃性はそれほど高くはない。中途で大胆な伏線を幾重にも張っているため、勘が良い読み手なら予測することも可能だろう。真相の意外性よりも、全編に漂う頽廃/背徳的なシチュエーションにバンクスの独創性を感じた。
主人公は16歳の少年フランク。スコットランドの或る島に生まれ育ち、今も父親と暮らしている。母親はフランクを産んですぐに失踪。食事の世話などをする女が定期的に訪れる以外は、島を訪れる者はいなかった。フランクは家を取り囲む一定範囲内に呪術的な防衛策を施し、手製の武器を用いて野性の小動物や鳥を狩り、異質の規範に基づいて行動していた。そんな中、腹違いの兄エリックが精神病院から脱走したとの報を受ける。フランクはこれまでの道程を振り返りつつ、兄との再会がもたらす暗い予感に打ち震える。その混乱が、自らの出生に隠された衝撃的な事実を明かす事態となることも知らないままに。
恐怖を主題とするが、読み終えた後は、ブラックユーモアの変種という印象。主要な登場人物は須く狂気の淵にいるのだが、一人称による文章は時に理智的な部分も垣間見せ、小説として破綻無く成立させるためのバランスに苦慮している。プロットは短編向きだが、肝となるアイデアを活かすための肉付けは多様。中でも、主人公が同世代の近親者三人を殺める場景、無垢と狂気の境界が崩壊する際の虚無感が異様な迫力に満ちており、震撼させられた。
全体に流れる無秩序/混沌、相対する安寧と抵抗、終局における「解放」は、のちに左翼的とも称されたバンクスのスタンス/思想を暗示していると捉えることもできるが、恐らく裏読みし過ぎなのだろう。
評価 ★★★