海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「おとしまえをつけろ」ジョゼ・ジョバンニ

フレンチ・ノワール隆盛期、闇社会に生きる男たちをスラングまみれの荒々しい筆致で描いた1958年発表作。無骨ながらも屈折したロマンを感じさせる作風がジョバンニの特徴なのだが、全編に満ちる男臭くギラギラとした世界観は独特なため、読み手との相性次第ではっきりと評価が分かれるだろう。

犯罪組織の大物ギュが脱獄する。かつての縄張りは、ギュのボスであったポールの死後、新興ギャングによって荒らされ、抗争へと発展しつつあった。ポールの女で、バーを経営するマヌーシュも狙われるが、駆け付けたギュが辛うじて救う。マヌーシュと用心棒アルバンの助けを借りて、ギュはフランスからの逃亡プランを練る。同時期、若手ギャングの精鋭リッチらが金塊強奪を計画。仲介者を通して伝説の男/ギュと接触する。逃亡資金が必要なギュは仲間に加わることを承諾、犯罪を実行した。襲撃に成功後、一旦地下に潜ったギュだったが、熟練刑事の罠に嵌まり、共犯者リッチの名を吐いてしまう。それは、裏切り者の汚名を着ることを意味した。

登場人物は須らく、仁義に背いた者には〝おとしまえをつけろ〟という短絡的な暴力主義を貫くのだが、そこに堅牢な師弟関係や仲間意識、激しい愛憎が絡み合うことで、敵味方の境界線が乱れ、ストレートな展開をとらない。主人公のみならず、傷付けられたプライドをいかに取り戻すかを優先するのだが、私は回りくどく、逆に女々しいとさえ感じた。いわば男であることの過度なこだわりが身の破滅を招く。それを美学と呼ぶか、愚かと捉えるか。

ジョバンニ専門の翻訳者と言っていい岡村孝一が多用する過剰なやくざ口調によって、古臭い任侠映画もどきとなり、硬質なロマン・ノワールの色が薄れているのは残念だ。ジョバンニのファンには好評で、日本語に置き直した隠語/俗語は原文の肌触りに近いのかもしれないが、感傷まで殺している。無論、これも読者の好み次第ではある。

 評価 ★★

おとしまえをつけろ (ハヤカワ・ミステリ 1054)

おとしまえをつけろ (ハヤカワ・ミステリ 1054)