海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「死者の書」ジョナサン・キャロル

ダーク・ファンタジーの代表的作家と称されるキャロル、1980年発表の処女作。

数々の名作を遺した伝説の童話作家マーシャル・フランス。高校教師トーマス・アビイは、少年期から憧れ続け、若くして逝った児童文学者の伝記を書くことが夢だった。そんな折、古書店で同作家の大ファンである女サクソニーと出会う。探究心豊かな彼女から刺激を得たアビイは、執筆に取り掛かる決意を固めた。人嫌いで写真やインタビュー類も些少、その人生は謎に包まれていた。ミズーリ州ゲレイン。フランスが心臓麻痺により44歳で死ぬまで一生の大部分を過ごした町。そこには今も作家の家が残り、一人娘アンナが住んでいた。アビイは、のちに関係を深めて恋人となったサクソニーと共に、ゲレインへと向かう。街の人々は、誰もがフランスとアンナのことをよく知っていた。美しいアンナは気難し屋という前評判とは逆に、アビイらを快く歓迎した。作家に関わる伝聞や資料も溢れていた。
だが、奇妙な出来事が徐々に起こり始めた。人間が凧に変わり、犬が喋った。単なる妄想なのか。やがて、アビイはフランスの未発表の原稿を手に入れ、驚愕の事実を知る。

「ダーク・ファンタジー」と呼ばれる分野に疎く、そもそも興味も薄いため、読み手として私は〝不適格〟な部類に入る。その上でのレビューとなるが、現実と幻想が交差する〝闇の領域〟を軸に構築した物語を指すのだろうと、読了後に漠然とイメージだけは掴んだ。タイトルからはホラーテイストの暗い世界を想像していたが、本作に〝恐怖感〟を呼び起こす要素はなく、全体的にトーンは明るい。中盤までは大した動きもなく、終盤に差し掛かりようやく事の真相は明かされるものの、肝となるアイデアに新鮮味がなく、生かし方もこなれていないと感じた。何でもありのファンタジーと括れば説明不要という〝大前提〟が受け容れられるかどうかで、本作の評価は変わるだろう。
十代の多感な世代が読めば、それなりに面白い小説だろうが、巻末後書きで翻訳者が絶賛するほどの出来ではない。
主人公を含め登場人物は総体的に軽く俗物的、いいように流されるだけの怠惰な印象しかない。核となる童話作家の造形にも、その架空の作品にも、さっぱり魅力を感じず、伝記作家となる若者の熱い思いに共感できなかったこともマイナス要因だ。結末も唐突で、違和感しか残さない。レトリックも平凡で、想像力を喚起する情景描写の技量が足りない。

つまり、私はキャロルの〝良い読者〟ではない。

 評価 ★

死者の書 (創元推理文庫)

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