海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「101便 着艦せよ」オースチン・ファーガスン

1979年発表の航空サスペンスで、内容は邦題と表紙の装画通り。

米国サンフランシスコから中国上海に向かっていた特別旅客機。その第3エンジンが整備不良によって大破した。同機は3発ジェットエンジンのダグラスDC-10。残り二つのエンジンで飛行は可能だったが、燃料が大量に失われており、長くは飛べない。一番近いのはソ連領内の島だった。だが、この飛行機には副大統領が搭乗し、米中友好の足掛かりとなる極秘の物資を積んでいた。その内容が東側に漏れれば、冷戦の新たな火種となりかねない。米政府は秘密が漏れることを恐れ、海上への胴体着陸を指示。だが、前例がなく、犠牲者が出ることは自明だった。刻々と時間が過ぎる中、ある案が浮上する。大型航空母艦への着艦。101便の操縦士らは、この極めて大胆で危険な賭けに挑むこととなる。

主人公は、同機に招待客として乗っていたダンカンで、現大統領がまだ候補者であった時代には専属パイロットでもあった。だが、脳腫瘍となり引退。いつ体調が急変するか分からない体となっている。この設定をどう生かすかが作家の腕の見せ所となる。飛行機が危機的状況となり、当然のこと敏腕パイロットのダンカンが操縦桿を握る展開とはなるが、どうにも盛り上がりに欠ける。現機長との確執や女性記者との恋愛要素なども盛り込んでいるのだが、あまりにも淡泊で深みがない。事がスムーズに運んでいくため、意外性やサスペンスも弱い。要は、未曾有の事態をどう乗り越えていくか、という冒険小説に不可欠なエッセンスを感じないのである。
コンパクトにまとめた構成で、全体的に悪くはないが、特化した点がない。読み手の予測を上回るアイデアがないため、これで終わりかという読後感だった。

評価 ★★