海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

2020-01-01から1年間の記事一覧

「おとしまえをつけろ」ジョゼ・ジョバンニ

フレンチ・ノワール隆盛期、闇社会に生きる男たちをスラングまみれの荒々しい筆致で描いた1958年発表作。無骨ながらも屈折したロマンを感じさせる作風がジョバンニの特徴なのだが、全編に満ちる男臭くギラギラとした世界観は独特なため、読み手との相性次第…

「砕かれた夜」フィリップ・カー

私立探偵ベルンハルト・グンターを主人公とする1990年発表の第2弾。権力を掌握したナチス・ドイツが侵略戦争に邁進した時代、その真っ只中のベルリンを舞台とするハードボイルド小説史上、極めて異色のシリーズだ。緊迫した情況をリアリティ豊かに組み込ん…

「殺人保険」ジェームズ・ケイン

ケインは自作について「共通するのは、欲望を満足させる〈愛の棚〉に身をのせた愛人たちのラヴ・ストーリーだ」と述べたという。甘美な表現に過ぎるようにも思えるのだが、恐らくレッテル付けを嫌ったケインならではの受け流し/はぐらかしなのだろう。1943…

「人魚とビスケット」ジェームズ・モーリス・スコット

1955年発表作で、早くもその2年後には翻訳されているが、長らく入手困難で〝幻の作品〟と言われていた。この〝幻〟が付く類は、実際に読んでみれば「この程度か」で終わる場合が多い。本作もあまり期待していなかったのだが、メインパートとなる海上での過…

「コパーヘッド」ウィリアム ・カッツ

唖然とした。あまりにも冷酷無比な結末に衝撃を受けたのだが、これほど後味の悪い読後感を残すストーリーは稀だろう。荒唐無稽な娯楽小説と割り切ってもなお、社会的倫理を唾棄し、タブーであるはずの境界を躊躇なく踏み越えるカッツという作家の得体のしれ…

「デセプション・ポイント」ダン・ブラウン

「ダ・ヴィンチ・コード」の爆発的ベストセラーにより、ミステリ/謎解きの魅力を、あらためて世に知らしめたダン・ブラウンの功績は大きい。エンターテインメント小説に何が求められているかを突き詰め、刺激的で魅惑的なアイデアを盛り込み、ロマンに満ち…

「ねじの回転」ヘンリー・ジェイムズ

1898年発表作で英国正調幽霊綺譚の古典とされている。舞台は、ロンドンから離れた片田舎にある古い屋敷ブライ邸。両親を亡くした幼い兄妹の新しい家庭教師として、語り手の女が赴任する。依頼者は二人の子の伯父だったが、不可解にも甥マイルズと姪フローラ…

「赤いパイプライン」エドワード・トーポリ

1988年発表作で、原題は「RED SNOW」。アンドロポフ政権時の旧ソ連が国家の威信を懸けたプロジェクト「シベリア=西ヨーロッパ・パイプライン」にまつわる秘史を題材とする。主な舞台となるのは、西シベリア・チュメニ州のヤマル・ネネツ民族管区。北極圈上…

「記憶なき殺人」ロバート・クラーク

米国ミネソタ州セントポール市を舞台とする1998年発表作。カメラが趣味の冴えない会社員ハーバート・ホワイトは、以前からモデルや女優を夢見るダンサーの宣材写真を無償で提供していた。女たちには、凡庸で無垢な人畜無害の男として受け止められていたが、…

「ディーバ」デラコルタ

1979年発表、フランスの覆面作家デラコルタの犯罪小説。パリを舞台にギャングらと渡り合う若者の行動をシャープな文体で描く。類稀なる歌声でオペラファンを狂喜させていた米国黒人歌手シンシア。彼女はディーバと呼ばれるに相応しい才能を持っていたが、レ…