海外ミステリ・レビュー

……新旧の積ん読本を崩しつつ

「『赤い風』の罠」ジョン・クロスビー

中世文学教授で元CIA局員キャシディを主人公とする1979年発表のサスペンス/スリラー。以降シリーズは第3作まで翻訳されている。

長らく失職中だったキャシディは、NYの超高級アパートに住むイタリアの大公妃エルサ・カスティグリオーネに雇われた。仕事内容は、彼女の娘ルーシアの家庭教師兼ボディガード。数年前、エルサの夫である大公は身代金目当ての誘拐でテロ組織に殺されていた。生意気盛りの少女ルーシアに手を焼きながらも、キャシディは少しずつ信頼関係を築いていく。同居人は謎の多い執事と反抗的な若い乳母。さらには、正体が分からない男色家の住人や元ナチの警備主任など、どうにも怪しい人物に囲まれていた。キャシディは、妖艶で男関係に節操がないエルサに翻弄されながらも、CIAの元同僚や新聞社のつてを頼って、この一風変わった家族周辺の秘密を徐々に掴んでいく。問題は間近に迫る大規模なパーティーだった。国内外から社交界の有名どころを招くのだが、世間には特権階級を揶揄するネタとして報道された。必然、再びテロリストを引き寄せることとなり、その動きも見られた。キャシディはルーシアを守るための方法を模索するが、事態は悪い流れへと向かっていた。

全体的にはハードボイルド・テイスト(タッチではない)で個人的には好み。50代の男やもめである主人公がいい味を出しており、愛情に飢えた少女とのやりとりも〝べた〟ではあるが巧い。やさぐれていながらも純真な部分もあるキャシディのキャラクターが生きている。ただ、肝心要の終盤で失速する。テロリストによるパーティー襲撃後に明かされる真相は、主人公が執筆中らしい本からの抜粋という形式を取り、結局、作者は何を描きたかったのかと首をかしげた。物語をストレートに語りたくない作家は山ほどいるのだが、それが効果を上げるか否かは別で、結果的には破綻する失敗作が多い印象がある。本作の〝遊び〟はささやかなものだが、どうせならエピローグまで直球で勝負して欲しかった。主人公が魅力的な人物だけに残念だ。
評価 ★★☆☆