1980年発表、私立探偵〝名無しのオプ〟シリーズ第6弾。初登場時は、狂的なパルプ・マガジン蒐集家にして、肺癌の恐怖に怯えるヘビースモーカーという設定で、ネオ・ハードボイルドの一角を占めていたが、前作「暴発」で煙草をきっぱりとやめており、探偵自身の行状について語ることも減っている。ただ、静謐な文体と、全体的にくすんだ色調はそのままで、軽口を叩かず、真摯に真相を追うオプの姿勢は、読んでいて心地良い。批評家らが散々指摘していることだが、プロンジーニは謎解きを主体とする本来のミステリにこだわる小説家で、本シリーズも探偵のライフスタイルよりも、手掛ける事件の不可解性と事実を追い求めていく過程で生じるサスペンスに軸を置いている。短期間で二つの家族に起こる悲劇と偶然がもたらす不条理な連続性。骨格のしっかりした物語は、シャープで切れ味も良い。
評価 ★★★